岡本実佳枝(MIKAE OKAMOTO)←クリックしてください。 MIKAE OKAMOTO

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報せがあった。私は広島にいた頃に担当学生たちを何人か、東邦アートに紹介していったが、彼らは腰を据えて付き合うアーティストとして、岡本実佳枝を選んだのだという。曰く、「岡本さんの一歩一歩踏み締めて階段を登っていくような制作姿勢は、最近の若手の方とは異なっています」彼女はメインテーマとして、なぜかフジツボを選んでいる。船底や磯の岩へ強固に付着する人間の経済活動にとっては厄介な生物群だ。じつは私が2017年に特別講義を開講した際に、教場に選択肢のひとつとして運び込んだものにフジツボは含まれていた。それを彼女は、お仕着せのモチーフとは解釈せずに取り組み始め、現在に至るまで描き続けていたようだ。その尋常ではない関心の持続に、まずは驚かされたが、彼女は一般的には疎まれてしまいがちな生物の中に美的側面を見出し、自己投影をも果たしていたのではなかったか。甲殻類の一種であるにもかかわらず、フジツボは1度付着した場所から2度と動くことができないので、キプリス幼生期において後悔しないよう入念な土地探しをするという。そうやって岡本も描写という表現言語に、自ら制作の軸足を置いたのだろう。

30号の岡本としては大きなサイズの最新作、「迷子のミツバチ」には特に注目してもらいたい。本作には単純な徹底描写にとどまらない、彼女の幻視者としての資質が表れている。蛸壺に付着し群生したフジツボの中に、可憐なシロツメクサがひっそりと描きこまれ、そのまわりを逡巡するミツバチは、我々が直面せざるを得ない問題を示唆しているかのようだ。

岡本の絵には声高に衆目を集める外連味はないが、ささやくように、いつの間にか重要な内容を伝えるもので、貴重だ。長く見守ってもらいたい。                    諏訪敦                      

脳神経を狂わされた彼らは帰る場所を忘れる

私たちは目に見えざるものの不確かさを思い出す

付着生物であるフジツボは、1度決めた場所から

2度と動くことができない。

ボタンほどの小さな巻き貝に付着してしまった

フジツボ。命終わるまで結ばれた縛り。

実家で飼っている猫。

窓から差し込む陽に照らされる姿が印象的だった。

この子は、首輪をしてもすぐ失くしてしまうので、

母が作った安いビーズ玉の首輪をつけている。

しかし、この時はただのビーズ玉が特別煌めいて、

おしゃれを楽しむ少女の面影を感じた。

実家の愛猫をいじめる不届き者がいた。

両親はそいつを「仮面にゃんこ」と呼んでいた。

いじめっ子ではあったが、野良猫集団の中ではリーダー的存在で、赤毛の猫を引き連れ実家の庭を闊歩していた。毛並みが美しいイケメンにゃんこだったので、猫だけでなく、近所の人にも人気があった。

私が初めて「仮面にゃんこ」と出会ったのは、お盆に帰省したときだった。斜め向かいの家の敷地でくつろいでおり、近づいても警戒はするが、逃げたりはしない。恰幅のいい佇まいで格好よかった。私はすかさずカメラを向けて、記録した。

しかし、その数週間後、母から仮面ニャンコの死を知らされた。私が目撃した日の1週間後くらいに、近くの草原で死んでいたそうだ。

あまりにもあっけなかった。

夕暮れ時の太陽に照らされこちらを見つめるあの瞳をあの静けさを私は忘れないだろう。

1996年広島県に生れる。
2018年641諏訪敦研究室 特別講義「篠田教夫 鉛筆画の臨界点」成果展
2019年広島市立大学卒業制作展、広島市立大学美術学科油絵専攻卒業
個展(coffee shop LEGATO)
2020年ANMico(東邦ア-ト)

2021年  NEWリアリズム展(福山天満屋)、I LOVE CATS!(玉川髙島屋)   

      写実・Premium(岡山天満屋)、愛しきものたち(東邦アート)